| 5000hit 岬凍夜さまリクエスト小説 |
| 徒然ぶらり旅日記 |
世界を、もっと広い世界を見てみろと、あいつは言った。 その言葉に、私は決断した。この男と共に、草原の大地へと踏み入れることを。 口の軽い、浮ついた男ではあるが。時折見せる真摯な瞳を、信じてみようと思った。 これは、私クリス・ライトフェローが、父の手がかりを探しにクラスランドへと旅立った日々の記録である。 ○月×日 晴れ 「・・・・・・なんで、こんなところに連れてくる」 じと目で睨み付けてくるクリスに、その男はひょいと何かを差し出しながら、笑顔で答える。 「うまいぞ、これ。食っておいて損はないと思うんだが」 差し出されているのは、ほかほかと湯気を立てる「たいやき」であった。 自分も一つ頬張りながら、男は「たいやき」を受け取ろうともせずに立ち尽くすクリスに首を傾げる。 「いらないのか?」 「そうじゃなくて、だ!なぜイクセの村に連れてきたと言っているんだ、私はっ!」 父の手がかりを求めてグラスランドに旅立った、はずの二人組、クリスとナッシュ。 ところが、ナッシュに案内されるままにたどり着いたのは、ゼクセン領のイクセ村だった。 先日、クリスとナッシュが初めて出会った場所でもあるここは、グラスランドの強襲の傷跡もまだ生々しい。 「・・・・・・冷めるぞ?」 なおも言ってくるナッシュに、怒り心頭ながらも「たいやき」を引っつかみ、食べ始めるクリス。食べ物は粗末 にしてはいけないと昔から躾けられていたこともあるし、何しろ朝から何も食べていない。 クリスが猛然と「たいやき」を食べ始めるのに苦笑しつつ、ナッシュは自分の分の「たいやき」の尾っぽを 名残惜しそうに飲み込み、口を開く。 「何故ここかって、そりゃあ、あれだよ」 「なんだ!」 「・・・こんな話を知っているか?幸せの青い鳥を探す兄妹の話だ。青い鳥を捕まえるため兄妹はあちこちを 探し回る。しかし、どこにも青い鳥はいない」 その話なら、小さい頃に読んだことがあった。 「結局、青い鳥は家にいた。そうだろう?」 「そう、幸せは、本当はとても身近にあったんだ。ただ気づかなかっただけで」 話すナッシュに、クリスは怒りの目を向ける。 「・・・・・だから、何が言いたい?」 「それと同じさ。真実も、意外に身近なところに転がってるもんじゃないかってね」 「つまり・・・・・・」 「そう。勢い込んでグラスランドに行くのもいいが、まずこのゼクセンでちょっと情報を集めてみるのも悪くない だろう?それに・・・・・・」 ふと真剣な眼差しを向けてくるナッシュに、クリスは息を呑む。 「な、なんだ」 「あんたは、このゼクセンのことだってあまり知っちゃいない。そうじゃないか?国を守らんとするものが、その国に ついて知らないなんて笑い話だ。この機会に、ちょっとだけ視察をするのもいいだろう」 ナッシュの言葉に、ぐっと言葉を飲み込むクリス。失礼な言われようだが、しかし真実である。 「なあに、あんたが悪いわけじゃない。ただ、ちょっと悪目立ちしすぎて自由の利く立場じゃなかったからな。 今は騎士団長でもなんでもない、ただの旅人だ。今まで見えなかったものも色々、見えると思うぜ」 優しく告げるナッシュに、クリスはしばし俯く。 「・・・・・・そう、だな。おまえの言うことは正しい。私は、何も知らない・・・・・・」 顔を上げたとき、そこに迷いはなかった。 「案内してくれ。私の知らないゼクセンを。そして、グラスランドを」 その言葉に、きざったらしく一礼してみせるナッシュ。 「かしこまりました。全てはお姫様のお心のままに」 「だからそれは止めてくれと・・・・・・」 姫様呼ばわりに恥ずかしがるクリスに、ナッシュは笑ってまた何かを差し出してくる。 「なんだ、これは」 「この村名物、「にくじゃが」さ。うまいぞー」 ==================================================================================== ナッシュは、本当に私のためを思ってあんな事を言ったのだろうか。 私にはどうにも、ただ名物料理を食べたくてイクセに寄ったようにしか見えないのだが。 いや、疑うのはよそう。短い間とはいえ、旅の仲間に疑いの心を持つことは良いことではない。 ==================================================================================== ○月△日 くもり 「・・・なぜ、こんなところに風呂が・・・・・・」 呆れ返るクリスに、ナッシュが何かを手渡す。黄色くて、つぶらな瞳の、これはーーー 「あひるちゃんだ」 くそ真面目に言ってくるナッシュに、思わずそのあひるちゃんを投げつけそうになったが、ぐっとこらえた。 「風呂の友といえばそれだろう?ああ、これもつけよう」 更に渡してきたものは、「牛乳風呂の素」。ちなみにナッシュはといえば、手にした桶に晩酌セットを詰め、 手ぬぐいを首から下げて、楽しむ気満々である。 「だからなぜ、こんなところに連れてくる!」 古びた甲板の上には洗濯物が干され、船室の入り口にかけられたのれんは風に揺れている。 最近できたばかりの名所、ビュッデヒュッケ城の大浴場は、近隣からもわざわざ入りに来る客がいるほど 有名になっていた。 「風呂、嫌いか?女の人ってのは得てして風呂好きだと思ってたんだが」 「風呂は好きだ!そうじゃなくって、なぜこんなところに連れてきたと言ってる」 風呂桶を手にしながら、ナッシュはちっちっちと指を振る。 「何を言ってるんだ、ここはゼクセンとグラスランドの共有地。色々な人間が集まる場所だぞ?情報収集には もってこいだろ?」 そう言われると、クリスには返す言葉がない。 以前訪れたこともあるこのビュッデヒュッケ城は、ナッシュの言うとおり両国の共有地として、誰でも自由に 行き来できる場所となっている。苦しい城の財政を賄う為に城内を開放して店を出店してもらい、徐々にでは あるが発展してきていた。 ここには、ゼクセンやグラスランドだけにとどまらず、無名諸国やトラン共和国、デュナン国などから集まった 人々が暮らしている。 確かに情報収集にはもってこいかもしれない。かもしれないが。 「・・・・・・なぜ風呂に入るんだ」 しかもついて早々。 「ここの名物なんだ、一度は入っておくのもいいだろう?」 それじゃあな、と浮かれた足取りで男湯ののれんをくぐるナッシュに、クリスはどうしても納得がいかなかった。 「なぜだ・・・・・・」 ==================================================================================== 風呂は確かに気持ちよかったし、城の人々から情報収集も出来た。この国のことだけではなく外の世界の話を 聞くことが出来、いかに今までの私が無知だったかを実感した。 なるほど、有意義な時間をすごしたと言えよう。しかし、しかしだ。 なぜあいつは真っ先に風呂に入り、その後二時間も出てこなかったのか。 しかも風呂の中で飲みすぎて気分を悪くし、更に湯当たりまでして医務室に担ぎ込まれるとは、どういうことだ。 ・・・私には、ただ風呂を楽しみに来ただけにしか見えない。 いや、よそう。ここでの時間はとても有意義だったことに変わりはない。 ==================================================================================== ○月■日 晴れ 「・・・・・・なんだって?」 「いや、その・・・・・・」 笑ってごまかそうとするナッシュに、クリスは詰め寄る。 「道案内を頼むとはどういうことだ!お前はチシャ村への行き方を知らないと、そういうのか?」 チシャの村には炎の英雄に関わりのある人物がいる。だからまずそこを目指そうと、旅立つ時にナッシュは言った。 だからこそ、チシャ村への行き方を知っているものだと信じて疑わなかったのに。 この男は、道案内を雇おうと、ダックの村へ向かっている。 「すまん、おれはカレリア方面には詳しいんだが、その・・・・・・」 「道案内が道案内を雇うなど、本末転倒もはなはだしい!」 憤るクリスをまあまあと宥めて、ナッシュは続ける。 「そう怒るなよ。そうそう、ダック村じゃうまいトマトスープが飲めるんだぜ?ご馳走するから、許してくれよ」 「・・・・・・」 胡乱な瞳で見つめるクリスに、ナッシュがごまかし笑いを浮かべて弁解の言葉を紡ぎ出さんとした、その時。 ばさっ。 ナッシュの上着の裾から、冊子のようなものが落ちた。 「あ」 素早く拾おうとするナッシュを押しのけるように、クリスがそれを拾い上げる。 そして、拾った本をナッシュにばん、と突きつけて、怒髪天を抜く勢いで怒鳴った。 「どういうことだ、これはっ!!」 本のタイトルは、「ゼクセン〜グラスランドぶらり旅-名物料理から露天風呂まで-」・・・・・・・。 「い、いや、そのぉ・・・・・・」 「私をダシにして遊びまわるなどと、言語道断!剣の錆にしてやるからそこに直れ!!」 「ゆ、許せクリスっ!おれはただ、旅にはこういうお楽しみがないと、と思っただけで、そんな」 「問答無用っ!!」 「・・・チシャの村までだな?俺たちに任せとけよ」 なんとかクリスを宥め、たどり着いたダックの村で、二人はワイルダーとレットを道案内に雇うことが出来た。 「出発はすぐにする?」 「ああ、あんまり時間もないしな」 その言葉に、誰のせいだと言わんばかりに睨んでくるクリス。冷たい視線をさり気なく逸らして、話題を変えようと ナッシュは二人のダック達に話しかける。 「そ、そういやチシャの村は、極上のワインで有名なんだよな」 「ナッシュ!!」 「し、しまった・・・・・・」 -完- |
すいません、「ぶらり旅」と聞いた瞬間に、名物料理に露天温泉、のイメージがこびりついてしまいまして(>_<) よくTVの旅番組でやってるような、ああいうやつです。 すいませんすいません、これでリクエストに答えられたことになるんでしょうか(>_<) そういえば、実はクリスのお忍び旅って、寄り道しないとあっという間に終わっちゃうんですよね。 城から出るとすぐにダックの村へ飛んじゃうし。 旅装束のクリスを長く見ていたいがために、私はこれでもかとばかりに色々と連れまわしました(笑) ユンの時も同じことをやった記憶が・・・・・・。 |
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