| エレベーター |
その彼は、さきほどからしきりにエレベーターを調べていた。 滅多にない施設だから気になったのかもしれないが、扉や床に耳を当てては顎に手をやって考え事をしている 彼の姿は、トーマスの心にひっかかった。 「あの、ナッシュさん?何やってるんですか?」 ひとまず近づいていって声を掛けると、ナッシュは勢いよく振り返った。そして声を掛けたのがトーマスだと分かると、 そそくさとエレベーターを離れて階段の裏手まで回り、トーマスを手招きする。 「なにかあったんですか?」 すたすたとやってきたトーマスに、ナッシュは真剣な面持ちで、 「あのな、その……あのエレベーターについて、ちょっと疑問に思ったことがあってな」 「疑問、ですか?それなら、シズさんに聞けばいいじゃありませんか」 トーマスがこの城にやってきたときは壊れて使い物にならなかったエレベーターだが、修理依頼を受けてやって きたというシズによって元通りに直され、今では多くの利用者に愛されている。 「聞いてみたんだけど、教えてくれないんだ」 トーマスの言葉にナッシュは肩をすくめる。 「あのシズさんが、ですか?」 修理を終えた後はエレベーターガールとして働いてくれているシズは、清楚な容姿と丁寧な口調が人気を呼んで、 城内ではかなりの人気者である。人柄もよく、誰に対しても親切で優しいと評判だ。 そのシズが内緒にする、エレベーターの秘密とは何か。トーマスも興味をそそられる。 「一体、何を聞いたんです?」 「……動力だよ」 「動力?って、エレベーターを動かす力ってことですか?」 「ああ、あれだけのものを動かすんだ、とてもじゃないけどかなりの力がいるはずなんだが、思い当たらないだろ?」 言われてみれば、確かにその通りだ。 「そういえば、そうですよね」 トーマスも首を捻る。 「考えられるとすれば水車か動物に引かせるかだが、どちらも見当たらないだろ?魔法とも思えんし……」 そこでシズに尋ねてみたんだが、やんわりと話をそらされて教えてくれなかったと言うのだ。 「でも、よく気が付きましたね?僕、言われるまで全然気にしてませんでしたよ」 トーマスだけではない。恐らく、城のだれもが気にも止めていないだろう。 トーマスの言葉に、ナッシュはひきつった笑いを浮かべる。 「いやな、随分前に妙なものをみたことがあってな……」 あれは、グリンヒルへ抜ける森の中。 マッドサイエンティスト風の老人の指揮のもと、重りを持ち上げて訓練するマッチョマン達。 ほんの少しの間しか見ていなかったのに、今でもありありと思い起こせるあの光景。 「……人力って、ことですか?まさか」 ナッシュの話に、そう言って笑うトーマス。ナッシュもそうだよな、と笑ってみせる。 「なにしろエレベーターなんて、滅多にお目にかかれるもんでもないしな。ちょっと気になっただけだ。忘れてくれ」 そう言って、足早に去っていくナッシュ。 その背中を見送って、トーマスはエレベーターへと向かう。 スイッチを押すと、ほどなく扉が開いてシズが顔を覗かせた。 「これはトーマス様。どちらに参りますか?」 おっとりと尋ねてくるシズに、地下二階と頼む。 「畏まりました。地下二階へ参ります」 そう言ってボタンを押すと、扉が閉まり降下が始まる。 「あの、シズさん」 「はい?なんでございますか?」 「このエレベーターの動力って……」 トーマスがそう言った途端、どこからか 「いてっ」 という呟きが聞こえた、気がした。 「い、いまの……」 「何か聞こえましたか?」 小首を傾げるシズ。シズにも聞こえていたはずなのだが、あくまで聞かなかった振りをするつもりか。 「いや、いいんだ。それよりも、その、動力が」 トーマスの言葉を遮るように、実にタイミングよく、チーン、とエレベーターが止まる。 「地下二階でございます。ご利用ありがとうございました」 丁寧に頭を下げるシズ。その有無を言わせない態度に、トーマスはそれ以上何も聞けなかった。 後日。 目安箱に出されたシズからの「力仕事をする知人のために、お水をもらえるか」「力仕事をする知人 のために、肉を増やしてくれないか」という内容の手紙に、頭を悩ませるトーマスとナッシュがいた。 「……人に知られちゃまずいのか?」 「役に立ってくれてるんだし、堂々とみんなの前に出てきて欲しいですよね」 「……なにか、掟かなんかあるのかもな」 なんにせよ、深く考えない方がいいらしい。 -完- |
目安箱でも、詳細は書かれてません(^_^;) 外伝Vol.1の裏ルートを通った方ならご存知でしょう、「エレベーターバーバリアン」は、覆面レスラーかいっと つっこみたくなるようなヤツらでした……。 一体、どこから人材を調達したんでしょう、アダリーさん。 |
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